もや狂うように叫ぶ。)
李中行 (指さしながら。)あ、又来た、又来た……。
高田 え。(みかえる。)おお、蝦蟆だ、蝦蟆だ。
李中行 ゆうべ捨てて来たのに、又いつの間にか帰って来て、今度は中二の命を取ったのか。(罵る。)畜生……畜生……。貴様のおかげで、大事の息子も娘もみんな殺されてしまったのだ。金なんぞは要らないから返してやるぞ。(そこらに落ちたる金貨や銀貨をつかんで、青蛙に叩き付ける。)さあ、息子をかえせ、娘を返せ。
(李は哮《たけ》り狂って、手あたり次第に金貨や銀貨をなげ付け、更に卓の上のピストルを把れば、高田は見かねて支える。)
高田 まあ、お待ちなさい。
柳 (おなじく支える。)そんなことをして、又どんな祟りがあるかも知れないから、およしなさいよ。
李中行 ええ、祟るならどんなにでも祟ってみろ、もう斯《こ》うなったら息子のかたきだ、娘のかたきだ。畜生、唯は置くものか。
(李はピストルを把って進もうとするを、高田と柳は支える。李は振放そうと争うはずみに、ピストルの曳金は外れて、我手でわが胸を撃ちて倒れかかる。)
高田 (李をかかえながら。)もし、どうしました……。どうしました。

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