大きい瓶のなかに入れて埋めてあるのだ。そうして置けば、誰も気の付く筈がない。だれにも取られる筈がない。はは、どんなものだ。はははははは。
高田 そうして置いたら大丈夫かも知れませんが、その代りに利子が取れませんね。
李中行 又それを云いなさるか。若い人達はそれだから困るな。利息などを取ろうとするから、却って大きい損をするのだ。
(高田は笑いながら中二と再び顔を見合わせ、とても云っても無駄だという思入れ。中二もあきらめたように首肯《うなず》く。李はやがて立上る。)
李中行 いつも云うことだが、年寄りと若い者とはどうも話が合わない。高田さん。せがれが帰って来ましたから、若い同士でまあゆっくり[#「ゆっくり」に傍点]お話しなさい。私は御免を蒙ってお先へ休みますからな。
高田 相変らず早寝ですね。
李中行 早寝は昔からの癖ですよ。
(李は笑いながら寝室に入る。二人も笑いながら後を見送る。)
中二 あれだから話にならない。はははははは。
高田 いや、日本でも田舎へ行くと、やっぱりあんな年寄りがありますよ。
中二 そうですかなあ。いや、それがおかしいんですよ。あなたの工場から妹の弔慰金を送って来る
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