のだが、それが案外にばたばた[#「ばたばた」に傍点]と潰れてしまうのだから、めったに油断はできない。なんでも自分の金は自分がしっかり[#「しっかり」に傍点]と預かっているに限りますよ。五分の利が付くとか、六分の利が付くとか、そんな慾張ったことを考えるから、元も子もなくして仕舞うことになる。現にわたしの知っている者でも、あの銀行騒ぎのために大損《おおぞん》をした者が幾人もあります。娘の命と掛け換えの大事の金を、どうしてそんな危ないところへ預けて置かれるものですか。たとい忰がなんと云っても、お前さんが何と勧めても、こればかりは私がどうしても不承知ですよ。(寝室をみかえる。)女房だって不承知に決まっています。(中二に。)あの金は高田さんの工場からおれ達夫婦に呉れたのだ。おまえに呉れたのでは無いのだぞ。おれ達の金を何《ど》うしようと、おれ達の勝手ではないか。おまえが余計な世話を焼くには及ばないのだ。(卓を叩く。)
中二 お父《とっ》さんは相変らず頑固だなあ。(高田と顔をみあわせて苦笑いする。)
李中行 はは、安心していろ。おれだって迂闊なことをするものか。あの金はみんな金貨や銀貨に引きかえて、
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