い蝦蟆を見せると、わたしが止めるのも肯《き》かないで、おまえさんは何か祈ったろう。障らぬ神に祟り無しと云うのはその事だ。神様だが魔物だか判らないようなものに、うっかり祈ったり、願掛けをしたりすると、飛んでもない祟りや災難を受けることがあるものだ。お前さんは屹とあの蝦蟆に祟られたんだよ。それで無くって、今まで真面目に働いていた人間が、急に生まれ変ったような怠け者になる筈が無いからね。
李中行 祟られるなら祟られても好い。幾度云っても同じことで、おれの料簡はおまえ達には判らないのだ。まあ、打っちゃって置いてくれ。
(李は笑いながら悠々と長煙管の煙草をのんでいる。)
柳 (舌打ちして。)ええ、どうとも勝手にするが好い。気違いじじいめ。
(柳はそのまま表へ出で、足早に下のかたへ立去る。李はそのうしろ姿を見て、大きく笑い出す。)
李中行 なにが気ちがいだ。どいつも今にびっくりするな。あはははははは。(立って土間をあるき廻る。)中二の奴めも利口ぶって、何かおれに意見するだろう。あははははは。あいつ等はみんな青蛙神の奇特を知らないのだ。青蛙神に祈れば、自然に福を授けられると云うことを知らないのだ。あ
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