》ゆ。)
會徳 これ、これ、どうしたものだ。好い年をして夫婦喧嘩は外聞が悪いではないか。まあ、まあ、静かにするが好い。
柳 だって、お前さん。まあ、聴いてください。この頃は高梁《コーリャン》の刈入れ時で、どこの家でも眼が廻るほど忙がしいのに、この人は朝から煙草ばかりぱくぱく喫《の》んで、寝そべって……。
李中行 なんでおれが寝ているものか。夜明けからちゃん[#「ちゃん」に傍点]と起きているのだ。
柳 起きているか、死んでいるか、判るものか。秋の日は短いというのに、なぜ朝からぶらぶら[#「ぶらぶら」に傍点]遊んでいるんだよ。
李中行 遊んでいるのではない。こうして黙って坐っていても、おれには又おれの料簡がある。燕雀いずくんぞ大鵬のこころざしを知らんと、昔の陳勝呉廣《ちんしょうごこう》も云っているのだ。
柳 なんの、聴き取り学問で利口ぶったことを云うな。百姓が畑へも出ないで、毎日のらくら[#「のらくら」に傍点]していてそれで済むと思うのかよ。早く刈込んで来なければ、たべ物ばかりか、焚き物にも困るじゃないか。ほんに、ほんにお前のような人は豚にも劣っているのだ。
李中行 なにが豚だ。
會徳 ま
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