か。お父さんはさっきからお前を待っていたんだよ。
中二 店の方が忙がしかったもんですから、つい遅くなりました。
李中行 (引返して来る。)お前、大へんに遅かったではないか。おれ達はもう月を拝んでしまったのだ。
中二 今帰った人は誰です。
李中行 (笑ましげに。)あれはおまえの識らない人だ。三年|前《まえ》にここの家《うち》へ泊まったことがあって、その時の預け物を今夜うけ取りに来たのだ。
中二 お父さんの拝んでいたのは何です。
李中行 あれは江南でいう青蛙神だ。
中二 青蛙神……。
李中行 はは、判らないか。おまえ達はここらで育ったから、なんにも知るまいが、三本足の青い蝦蟆を祭るのだ。
中二 (笑う。)そんなものを祭って、どうするのです。
李中行 どうするものか。自分の願いが叶うように祈るのだ。
柳 それでお前さんは何を祈ったの。
李中行 大抵はおまえも察しているだろうが、本当のことは迂闊に云えない。他人に知られると、奇特が無いというからな。まあ、その奇特のあらわれるまでは、黙っていることにしようよ。
中二 (又笑う。)お父さんはまだそんなことを信じているんですか。
李中行 おまえ達のよ
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