ていた。わたしも釣り込まれて微笑した。
「そこで、君の家は別として、その以前に住んでいた人たちが西瓜を食ってみんな死んだというのは、本当のことだろうか。」
「さあ、僕も確かには知らないが、ここらの人の話ではまず本当だということだね。」と、倉沢は笑った。「たといそれが事実であったとしても、西瓜を食うと祟られるという一種の神経作用か、さもなくば不思議の暗合だよ。世のなかには実際不思議の暗合がたくさんあるからね。」
「そうかも知れないな。」
 私もいつか彼に降伏してしまったのであった。西瓜の話はそれで一旦立消えになって、それから京都の話が出た。わたしは三、四日の後にここを立去って、さらに京都の親戚をたずねる予定になっていたのである。倉沢も一緒に行こうなどと言っていたのであるが、親戚の老人が死んだので、その二七日や三七日の仏事に参列するために、ここで旅行することはむずかしいと言った。自分などはいてもいないでも別に差支えはないのであるが、仏事をよそにして出歩いたりすると、世間の口がうるさい。父や母も故障をいうに相違ないから、まず見合せにするほかはあるまいと彼は言った。そうして、君は京都に幾日ぐら
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