も祟られるのか。」
「まあそうなのだ。又左衛門の家はほろびて、他の持主がここに住むようになっても、やはり西瓜を食うと命があぶない。そういうわけで、持主が幾度も変って、僕の一家が明治の初年にここへ移住して来たときには、空家《あきや》同様になっていたということだ。」
「君の家の人たちは西瓜を食わないかね。」と、わたしは一種の興味を以って訊いた。
「祖父は武士で、別に迷信家というのでもなかったらしいが、元来が江戸時代の人間で、あまり果物――その頃の人は水菓子といって、おもに子供の食う物になっていたらしい。そんなわけで、平生から果物を好まなかった関係上、かの伝説は別としても、ほとんど西瓜などは食わなかった。祖母も食わなかった。それが伝説的の迷信と結びついて、僕の父も母も自然に食わないようになった。柿や蜜柑やバナナは食っても、西瓜だけは食わない。平気で食うのは僕ばかりだ。それでもここで食うと、家の者になんだかいやな顔をされるから、ここにいる時はなるべく遠慮しているが、君も知っている通り、東京に出ている時には委細構わずに食ったよ。氷に冷やした西瓜はまったく旨いからね。」
かれはあくまで平気で笑っ
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