西瓜
岡本綺堂
−−
【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)雇人《やといにん》
|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)静岡|在《ざい》の
[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)あっ[#「あっ」に傍点]と
−−
一
これはM君の話である。M君は学生で、ことしの夏休みに静岡|在《ざい》の倉沢という友人をたずねて、半月あまりも逗留していた。
倉沢の家は旧幕府の旗本で、維新の際にその祖父という人が旧主君の供をして、静岡へ無禄移住をした。平生から用心のいい人で、多少の蓄財もあったのを幸いに、幾らかの田地を買って帰農したが、後には茶を作るようにもなって、士族の商法がすこぶる成功したらしく、今の主人すなわち倉沢の父の代になっては大勢の雇人《やといにん》を使って、なかなか盛んにやっているように見えた。祖父という人はすでに世を去って、離れ座敷の隠居所はほとんど空家同様になっているので、わたしは逗留中そこに寝起きをしていた。
「母屋《おもや》よりもここの方が静かでいいよ。」と、倉沢は言ったが、実際ここは閑静で居心のいい八畳の間で
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