う仕方がない。三人の侍が首だ首だと騒ぎ立てると、田舎生れの正直者の中間は面食らって、異常の恐怖と狼狽とのために、これも妄覚の仲間入りをしてしまって、その西瓜が生首のように見えたのだ。それだから彼等がだんだんに落ち着いて、もう一度あらためて見ることになると、西瓜は依然たる西瓜で、だれの眼にも人間の首とは見えなくなったというわけさ。こう考えれば、別に不思議はあるまい。」
「なるほど辻番所の一件は、まずそれで一応の解釈が付くとして、その中間が自分の家へ帰った時にも再び西瓜が首になったというじゃあないか。主人の細君がなんにも知らずに風呂敷をあけて見たらば、やっぱり女の首が出たというのはどういうわけだろう。」
「その随筆には、細君がなんにも知らずにあけたように書いてあるが、おそらく事実はそうではあるまい。その風呂敷をあける前に、中間はまず辻番所の一件を報告したのだろうと思う。武家の女房といっても細君は女だ。そんな馬鹿なことがあるものかと言いながらも、内心一種の不安をいだきながらあけて見たに相違ない。その時はもう日が暮れている。行燈の灯のよく届かない縁先のうす暗いところで、怖々のぞいて見たのだから
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