や西瓜のなかで育ったのでしょうな。しかし西瓜が女の生首に見えたなぞは少し念入り過ぎる。伊平さんも真面目そうな顔をしていながら、人を嚇かすのはなかなか巧いね。ははははは。」
八百屋の亭主も西瓜から蛙の飛び出したことだけは信用したらしかったが、それが女の首に見えたことは伊平の冗談と認めて、まったく取合わないのであった、伊平はそれが紛れもない事実であることを主張したが、口下手の彼はとうとう相手に言い負かされて、結局不得要領で引揚げて来たのである。しかし、かの西瓜が小原数馬の畑から生れたことだけは明白になった。同じ屋敷の南瓜から蛇の出たことも判った。しかしその蛇にも女の髪の毛がからんでいたかどうかは、伊平は聞き洩らした。
もうこの上に詮議の仕様もないので、八太郎はその西瓜を細かく切り刻んで、裏手の芥溜《ごみため》に捨てさせた。あくる朝、ためしに芥溜をのぞいて見ると、西瓜は皮ばかり残っていて、紅い身は水のように融《と》けてしまったらしい。青い蛙の死骸も見えなかった。
事件はそれで済んだのであるが、八太郎はまだ何だか気になるので、二、三日過ぎた後、下谷の方角へ出向いたついでに、かの辻番所に立
前へ
次へ
全33ページ中15ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
岡本 綺堂 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング