ていた。わたしも釣り込まれて微笑した。
「そこで、君の家は別として、その以前に住んでいた人たちが西瓜を食ってみんな死んだというのは、本当のことだろうか。」
「さあ、僕も確かには知らないが、ここらの人の話ではまず本当だということだね。」と、倉沢は笑った。「たといそれが事実であったとしても、西瓜を食うと祟られるという一種の神経作用か、さもなくば不思議の暗合だよ。世のなかには実際不思議の暗合がたくさんあるからね。」
「そうかも知れないな。」
私もいつか彼に降伏してしまったのであった。西瓜の話はそれで一旦立消えになって、それから京都の話が出た。わたしは三、四日の後にここを立去って、さらに京都の親戚をたずねる予定になっていたのである。倉沢も一緒に行こうなどと言っていたのであるが、親戚の老人が死んだので、その二七日や三七日の仏事に参列するために、ここで旅行することはむずかしいと言った。自分などはいてもいないでも別に差支えはないのであるが、仏事をよそにして出歩いたりすると、世間の口がうるさい。父や母も故障をいうに相違ないから、まず見合せにするほかはあるまいと彼は言った。そうして、君は京都に幾日ぐらい逗留するつもりだと私に訊いた。
「そう長くもいられない。やはり半月ぐらいだね。」と、わたしは答えた。
「そうすると、廿七八日ごろになるね。」と、かれは考えるように言った。「帰りに又ここへ寄ってくれるだろう。」
「さあ。」と、私もかんがえた。再びここへ押し掛けて来ていろいろの厄介になるのは、倉沢はともあれ、その両親や家内の人々に対して少しく遠慮しなければならないと思ったからである。それを察したように、彼はまた言った。
「君、決して遠慮することはないよ。どうで田舎のことだから別に御馳走をするわけじゃあなし、君ひとりが百日逗留していても差支えはないのだから、帰りには是非寄ってくれたまえ。僕もそのつもりで待っているから、きっと寄ってくれたまえよ。廿七日か廿八日ごろに京都を立つとして、廿九日には確かにここへ来られるね。」
「それじゃあ廿九日に来ることにしよう。」と、私はとうとう約束してしまった。
「都合によると、僕はステーションへ迎いに出ていないかも知れないから、真っ直ぐにここへ来ることにしてくれたまえ。いいかい。廿九日だよ。なるべく午前《ひるまえ》に来てもらいたいな。」
「むむ、暑い時分だか
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