でいるのではないらしかった。その顔色から察しると、彼女は僕に対してやや打ち解けてきたらしい。彼女も僕が考えるとおなじように自分の叔父を見ていて、それが僕の話の邪魔になったとすれば――まったく邪魔になるようないろいろの事情があるのである――僕はすこぶる困難の立場にあるもので、それがために言葉が多少粗暴になるのも、挙動が多少調子外れになるのも、まあ恕《じょ》すべきであると考えたであろう。僕もまた、僕の一部的説明の熱情が相当の効果をもたらしたのを知って、ここで猶予なしにわが思うことを打ち明けたほうが、自分のために好都合であろうと考えた。たとい彼女が僕の申し込みを受け入れようが受け入れまいが、彼女と僕との友情関係が前日よりも悪化しようとは思われない。僕が自分の恋を語ったならば、彼女はゆうべの僕がばかばかしく呶鳴ったことなどを忘れてくれそうである。その顔色が大いに僕の勇気を振るい起こさせた。
僕は自分の椅子を少しく彼女に近寄せた。そのとき彼女のうしろの入り口から幽霊がこの部屋へ突入して来た。もちろん、ドアがあいたわけでもなく、なんの物音をさせたわけでもないが、僕はそれを突入というのほかはなかっ
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