由があった。
こうして、マデライン嬢と一緒に腰をかけて、少しばかり話などをしていながら、僕はこの重大事件についてはなはだ思い悩んでいる時、ふと見あげると、われわれより十二尺とは距《はな》れていないところに、かの幽霊の姿が見えた。
幽霊は廊下の欄干《てすり》に腰をおろして片足をあげ、柱に背中を寄せかけて片足をぶらりと垂れていた。僕はマデライン嬢と向かいあっているので、彼は彼女のうしろ、僕のほとんど前に現われているのであった。僕はそれを見て、ひどく驚いたような様子をしめしたに相違なかったが、幸いに彼女は庭の景色をながめていたので気がつかないらしかった。
幽霊は今夜どこかで僕に逢おうと言ったが、まさかにマデライン嬢と一緒にいるところへ出て来ようとは思わなかったのである。もしも彼女が自分の叔父の幽霊を見つけたとしたら、僕はなんと言ってその事情を説明していいか分からない。僕は別に声は立てなかったが、その困惑の様子を幽霊も明らかに認めたのである。
「ご心配なさることはありません」と、彼は言った。「私がここにいても、ご婦人に見つけられることはありません。また、わたしが直接にご婦人に話しかけなけ
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