老人の顔を間近に見たのであるが、それが男だか女だか分からないような、一種の忌《いや》な感じを受けた。
「あなたのお名前は……」と、老人は話しつづけた。
「コスモ・フォン・ウェルスタール」
「ああ、そうでしたか。なるほど、そういえばお父さんに肖《に》ておいでなさる。若旦那、わたくしはあなたのお父さんをよく存じておりますよ。実をいうと、このわたくしの家《うち》の中にも、あなたのお父さんの紋章や符号のついた古い品がいくつもあります。そうでしたか。いや、わたくしはあなたが気に入った。それでは、どうです。言い値の四分の一で差し上げることにいたしましょう。但し、一つの条件付きで……」
それでもコスモにとっては重大の負担であったが、そのくらいならば都合が出来る。ことに途方《とほう》もない高値を吹かれて、とても手がとどかないと思ったあとであるから、いっそうそれが欲しくなった。
「その条件というのは……」
「もしあなたがそれを手放したくなったらば、初めにわたくしが申し上げただけの金をわたくしにくださるように……」
「よろしい」と、コスモは微笑しながら付け加えた。「それはまったく穏当な条件だ」
「では、
前へ
次へ
全43ページ中8ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
岡本 綺堂 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング