れが彼の趣味と性格の一面に合致しているので、彼は更にこの古い鏡に対して一段の興味を増した。こうなると、どうしてもこれを手に入れて、自分の暇をみてその縁《ふち》の彫刻を研究したくなったのである。
しかし、彼はこの鏡を普通の日用にするような顔をして、これはずいぶん古いから長く使用にたえないだろうと言いながら、その面《おもて》の塵《ちり》を少しばかり拭いてみると、彼は非常に驚かされたのである。鏡の面はまばゆいほどに輝いていて、年を経たがために傷んでいる所もなく、すべての部分が製作者から新しく受け取ったと同様に、清らかに整っているのである。彼はまず主人にむかってその値《あた》いを訊《き》いた。
老人は貧しいコスモがとても手を出せないような高値を吹いたので、彼は黙ってその鏡を元のところに置いた。
「お高うございましょうか」と、老人は言った。
「どうしてそんなに高いのか、理屈がわからないな」と、コスモは答えた。「わたしの考えとはよほどの距離があるよ」
老人は灯をあげて、コスモの顔を見た。
「旦那は人好きのするかただ」
コスモはこんなお世辞にこたえることのできない男である。彼はこのとき初めて
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