それを運んだ時、輝いている灯に映じても、さのみに晃《ひか》らなかった。コスモはその彫刻に心を惹《ひ》かれたらしかったが、その以上に注意する様子もなく、彼は友達とともにここを立ち去ったのである。二人は元の大通りへ出て、ここで反対の方角に別れた。
独りになると、コスモはあの奇異なる古い鏡のことを思い出した。もっとよく見たいという念が強くなって、彼は再びその店の方へ足をむけた。彼が扉を叩くと、主人は待っていたように扉をあけた。主人は痩せた小柄の老人で、鉤鼻《かぎばな》の眼のひかった男で、そこらに何か落とし物はないかと休みなしにその眼をきょろつかせているような人物であった。コスモは他の品をひやかすようなふうをして、最後にかの鏡の前へ行って、それを下ろして見せてくれと言った。
「旦那。ご自分で取ってください。わたくしには手が届きませんから」と、老人は言った。
コスモは注意してその鏡をおろして見ると、彫刻は構図も技巧も共に優れていて、実に精巧でもあり、また高価の物でもあるらしく思われた。まだその上に、その彫刻にはコスモがまだ知らない幾多の技巧が施されていて、それが何かの意味ありげにも見えた。そ
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