いのである。
ある日の午後の黄昏《たそがれ》に近いころであった。彼は例のごとく夢みるような心持ちで、この町の目貫《めぬき》の大通りをあるいていると、学生仲間のひとりが肩をたたいて声をかけた。そうして、自分は古い鎧《よろい》をみつけて、それを手に入れたいと思うから、裏通りまで一緒に来てくれないかと言った。
コスモは古代および現代の武器については非常にくわしく、斯道《しどう》の権威者とみとめられていた。ことに武器の使い方にかけては、学生仲間にも並ぶ者がなかった。そのなかでも、ある種の物の使い方に馴れているので、他のすべての物にまで彼が権威を持つようにもなったのである。コスモは喜んで彼と一緒に行った。
二人は狭い小路に入り込んで、ほこりだらけな小さい家にゆき着いた。低いアーチ型の扉《ドア》をはいると、そこには世間によく見うける種《しゅ》じゅの黴《かび》くさい、ほこりだらけの古道具がならべてあった。学生はコスモの鑑定に満足して、すぐその鎧を買うことに決めた。
そこを出るときに、コスモは壁にかけてあるほこりだらけの楕円形の古い鏡に眼をつけた。鏡の周囲には奇異なる彫刻があって、店の主人が
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