しめて頭の上にあげ、その眼を大きく輝かして、墓場から抜け出してきた幽霊のように狂喜の叫び声をあげた。
「私はもう自由です。わたしは自由です。あなたにお礼を言います!」
彼女は寝台の上に身を投げ出して泣いた。それからまた起《た》ちあがったかと思うと、烈しく部屋のうちをあちらこちら歩きまわって、何か嬉しいような呆《あき》れている様子であったが、やがて呆気《あっけ》にとられている附き添いの者を見返って言った。
「早く、リザ。わたしの外套《がいとう》と頭巾《ずきん》を持ってきておくれ」
彼女はまた低い声で言った。
「早くしておくれ、あのかたの処《ところ》へゆかなければならないから。ゆくなら一緒においでなさい」
間もなく二人は町へ出て、モルドーに架けられた橋にむかって急いだ。月は中空《なかぞら》にさえて、町には人の通りもなかった。姫はすぐに侍女のさきへ駈け抜けて、侍女が橋のたもとまで来たときに、彼女はもう橋の中ほどまで渡っていた。
「あなたは自由におなりになりましたか。鏡はこわしました。自由におなりでしたか」
姫が急いで行く時、彼女のそばでこういう声がきこえたのであった。姫は振り向いて見
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