してこうもお痩せになったのでございましょう。このかたが何かお話しくだすって、なにを苦しんでいらっしゃるのかおっしゃってさえくださればよろしいのですが、お目ざめになっていましても、どうしてもおっしゃらないのでございます」
「昏睡状態になって、なにもおっしゃりませんでしたか」
「何もお聞き申さないのでございます。それでも、このおかたが時どきお歩きになって、ある時などは一時間のあいだもお見えにならなくなったことがあって、お屋敷じゅうの人たちがびっくりなすったそうでございます。その時、このおかたは雨にお濡れになってお疲れと恐れのために死んだようになっていらしったそうで……。その時でさえも、どんなことが起こったのか、なにもおっしゃらなかったそうでございます」
この時、そばについている人たちは、動かない死人の女の口から聞こえるか聞こえないかの弱い声をきいてびっくりした。つづいて何かしきりにわけの分からないような言葉が出たかと思うと、そのうちに、「コスモ」という言葉が彼女の口から出た。それからしばらくの間、またそのままに眠っていたが、突然大きい叫び声を立てて、寝台の上に飛びあがって、両手を強く握り
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