興味を持ち始めたのを知って、人生に対する新しい対象物を考えた。彼は鏡にうつっている無一物のこの一室を、どの婦人が見ても軽蔑しないように作り変えようと思った。そうするには部屋を装飾して、家具を備えればいいのである。たとい貧しいとはいえ、彼はこの考えを果たし得る手腕を持っていた。これまでは財産がないために身分相応の面目を保つことが出来ないのを愧《は》じて、その財産を作るために努めて細ぼそと暮らしてきていたのであるが、いっぽう彼は大学における剣術の達人であったので、剣術その他の練習の教授を申しいでて、自分の思惑を果たすほどの報酬を要求したのであった。その申しいでには学生たちも驚いた。しかし、また熱心にこれを迎える連中も多かったので、結局は熱心なプラーグの若い貴族たちの仲間ばかりでなく、金持の学生や、近在の人たちにもそれを教授することになった。それがために彼は間もなくたくさんの金を得たのである。
 彼はまず器具類や風変わりの置物を、部屋の押入れの中にしまい込んだ。それから彼の寝台その他の必要品を煖炉《だんろ》の両側に置いて、そこと他とを仕切るために、印度の織物で二つのスクリーンを張った。それか
前へ 次へ
全43ページ中19ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
岡本 綺堂 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング