ら今まで自分の寝台のあった隅の方に、彼女のために優美な新しい寝台を備えた。そんなふうに贅沢な品物が日ごとにふえて、後には立派な婦人室が出来たのであった。
 毎夜、同じ時刻に女はこの部屋にはいって来た。彼女は初めてこの新しい寝台を見たとき、なかば微笑を浮かべて驚いたらしかった。それでもその顔色はまただんだんに悲しみの色になり、眼には涙を宿して、のちには寝台の上に身を投げ出して絹《シルク》のクッションに身を隠すように俯伏《うつぶ》した。
 彼女は部屋の中のものが増したり、変わったりするたびにそれに気がついて、それを喜んでいた。それでもやはり絶えず何か思い悩んでいるのであったが、ある夜ついに次のようなことが起こった。いつものように彼女が寝台に腰をおろすと、コスモがいま壁に飾ったばかりの絵画に彼女は目をつけたのである。コスモにとって嬉しかったのは、彼女は起《た》ちあがって絵画の方に進みよって、注意ぶかくそれを眺め、いかにも嬉しそうな顔色を表わしたことであった。しかもそれがまた悲しい、涙ぐんだような表情に変わって、寝台の枕に俯伏してしまったかと思うと、またその顔色もだんだんに鎮まって、思い悩んで
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