わして、骸骨がいないのを見ると、かすかに満足のおももちを見せた。その憂わしい顔色はまだ残っていたが、ゆうべほどではない。彼女は更にまわりのものに気をつけて、部屋のそこやここにある変わった器具などを物めずらしそうに見ていたが、それにもやがて倦《あ》いたらしく、睡気に誘われたように寝入ってしまった。
今度こそは彼女の姿を見失うまいとコスモは決心して、その寝姿に眼を離さなかった。彼女の深い睡《ねむ》りを見つめていると、その睡りが心をとろかすように、彼女からコスモに移って来るように思われた。しかも彼女が起きあがって、眼をとじたままで無遊病者のような足どりで部屋から歩み去った時には、コスモも夢からさめたように驚いた。
コスモはもう譬《たと》えようのない嬉しさであった。たいていの人間は秘密な宝をかくし持っているものである。吝嗇《りんしょく》の人間は金をかくしている。骨董家《こっとうか》は指環を、学生は珍書を、詩人は気に入った住居を、恋びとは秘密のひきだしを、みなそれぞれに持っている。コスモは愛すべき女のうつる鏡を持っているのである。
コスモは骸骨がなくなったのち、彼女が周囲に置いてあるものに
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