どうでもよかった。
この上にくわしくこの会合の光景を描写する必要はあるまい。要するに、私たちの会話なるものは、いたずらに大声叱呼《たいせいしっこ》しているが、プロミティウス(古代ギリシャの神話中の人物)であったらば耳もかさずに自分の岩に孔《あな》をあけているであろうし、タンタラス(同じく神話中の人)であったら気が遠くなってしまうであろうし、またイキシイオン(ギリシャ伝説中の人)であったらわれわれの話などを聴くくらいならばオルレンドルフ氏のお説教でも聞いているほうが優《ま》しだと思わざるを得ないくらいに、実に退屈至極のものであった。それにもかかわらず、私たちは数時間もテーブルの前に腰をおろして、疲れ切ったのを我慢して貧乏ゆるぎ一つする者もなかった。
誰かがシガーを注文したので、私たちはその人のほうを見かえった。その人はブリスバーンといって、常に人びとの注目の的《まと》となっているほどに優れた才能を持っている三十五、六の男盛りであった。彼の風采は、割合に背丈《せい》が高いというぐらいのことで、普通の人間の眼には別にどこといって変わったところは見えなかった。その背丈も六フィートより少し高
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