に一座のジョンスが最近ヨークシャーにおける銃猟の冒険談をはじめると、今度はボストンのトンプキンス氏が、人間の労働供給の原則を細目《さいもく》にわたって説明し始めた。
 それによると、アッチソンやトペカやサンタ・フェ方面に敷設《ふせつ》された鉄道が、その未開の地方を開拓して州の勢力を延長したばかりでなく、また、その工事を会社に引き渡す以前から、その地方の人びとに家畜類を輸送して飢餓を未然に防いだばかりでなく、長年のあいだ切符を買った乗客に対して、前述の鉄道会社がなんらの危険なしに人命を運搬し得るものと妄信させたのも、一《いつ》にこの人間の労働の責任と用心ぶかき供給によるものであるというのであった。
 すると、今度はトムボラ氏が、彼の祖国のイタリー統一は、あたかも偉大なるヨーロッパの造兵|廠《しょう》の精巧なる手によって設計された最新式の魚形水雷のようなものであって、その統一が完成されたあかつきには、それが弱い人間の手によって、当然爆発すべき無形の地、すなわち混沌たる政界の荒野に投げられなければならないということを、われわれに納得《なっとく》させようとしていたが、そんな論説はもう私たちには
前へ 次へ
全52ページ中2ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
岡本 綺堂 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング