哀願した。そうして、これらの種《しゅ》じゅの感情の上に、この世の中の有象無象《うぞうむぞう》が一つの憐れなたましいを墓に追いやるために、こんなにも騒いでいるのかという、ぼんやりした弱い驚きの感じが横たわっている。
八月二十七日――ヘザーレッグは実に根気よく私を看病していた。そうして、きのう私にむかって、病気|賜暇《しか》願いを送らなければならないと言った。そんなものは、まぼろしの仲間を遁《のが》れるための願書ではないか。五人の幽霊とまぼろしの人力車を去るために英国へ帰らせてくれと、政府の慈悲を懇願しろと言うのか。ヘザーレッグの提議は、わたしをほとんどヒステリカルに笑わせてしまった。
私は静かにこのシムラで死を待っていることを彼に告げた。実際もう私の余命は幾許《いくばく》もないのである。どうか私がとうてい言葉では言い表わせないほど、この世の中に再生するのを恐れているということと、わたしは自分が死ぬときの態度について、かず限りなく考えては煩悶しているということを信じていただきたい。
私は英国の紳士が死ぬときのように、寝床の上に端然として死ぬであろうか。あるいはまた、最後にもう一度木
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