を突きぬけて行ってしまったので、私の馬もそのあとに続いた。「ジャック、ジャック、あなた……。どうぞ私を堪忍してくださいよ」という声がわたしの耳へむせび泣くように響いたかと思うと、すぐにまた、「みんな思い違いです。まったく思い違いです」という声がきこえた。
私はまるで物に憑《つ》かれた人間のように、馬に拍車を当てた。そうして、貯水場の建物のほうへ顔を向けると、黒と白の法被が――執念深く――灰色の丘のそばに私を待っていた。私が今聴いたばかりのあの言葉が、風と共に人を嘲けるように響いてきた。キッティは私がそれから急に黙ってしまったのを見て、しきりに揶揄《からか》っていた。
それまでの私は口から出まかせにしゃべっていたが、その後は自分の命を失わないようにするために、私はしゃべることが出来なくなったのである。私はサンジョリーから帰って、それからお寺へ運ばれるまで、なるべく口をとじてしまうようになった。
三
その晩、私はマンネリング家で食事をする約束をしたが、ぐずぐずしているとホテルへ帰って着物を着かえる時間がないので、エリイシウムの丘への道を馬上で急いでいると、闇のうちに
前へ
次へ
全56ページ中26ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
岡本 綺堂 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング