《くつわ》をならべて外出したが、私の最初の嘘は、やはり二人の心になんとなく溝《みぞ》を作ってしまった。
彼女はしきりにジャッコのまわりを馬で廻りたいと言ったが、私はゆうべ以来まだぼんやりしている頭で、それに弱く反対して、オブザーバトリーの丘か、ジュトーか、ボイルローグング街道を行こうと言い出すと、それがまたキッティの怒りに触れてしまったので、私はこの以上の誤解を招いては大変だと思って、その言うがままにショタ・シムラの方角へむかった。
私たちは道の大部分を歩いて、それから尼寺の下の一マイルばかりは馬をゆるく走らせて、サンジョリー貯水場のほとりの平坦なひとすじ道に出るのが習慣になっていた。ややもすれば質《たち》の悪い私たちの馬は駈け出そうとするので、坂道の上に近づくと、わたしの心臓の動悸はいよいよ激しくなってきた。この午後から私の心は、ウェッシントン夫人のことで常にいっぱいになっていたので、ジャッコの道の到る所が、その昔ウェッシントン夫人と二人で歩いたり、話したりして通ったことを私に思い出させた。思い出は路ばたの石ころにも満ちている。雨に水量《みずかさ》を増した早瀬も不倫の物語を笑うよ
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