かったり、または非常な心配事に出逢ったりする場合には、骨身を惜しまずに尽くしてくれるものである。
ドクトル・ヘザーレッグは普通の開業医であるが、内職に自分の家《うち》に病室を設けていた。彼の友人たちはその設備を評して、もうどうせ癒《なお》らない患者のための馬小屋だといっていたが、しかし実際|暴風雨《あらし》に逢って難破せんとしている船にとっては適当な避難所であった。印度の気候はしばしば蒸し暑くなる上に、煉瓦づくりの家の数が少ないので、唯一《ゆいいち》の特典として時間外に働くことを許可されているが、それでもありがたくないことには、時どきに気候に犯されて、ねじれた文章のように頭が変になって倒れる人たちがある。
ヘザーレッグは今まで印度へ来ていたうちでは一番上手な医者ではあるが、彼が患者への指図といえば、「気を鎮めて横になっていなさい」「ゆっくりお歩きなさい」「頭を冷やしなさい」の三つにきまっている。彼にいわせれば、多くの人間はこの世の生存に必要以上の仕事をするから死ぬのだそうである。彼は三年ほど以前に自分が治療したパンセイという患者も、過激な仕事のために生命を失ったのだと主張している。
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