旅行が出来るようになるであろう。
款待《かんたい》を受けることを当然と心得ている世界漫遊者も、わたしの記憶しているだけでは、だいぶ遠慮がちになってきてはいるが、それでも今日《こんにち》なお、諸君が知識階級に属していて、礼儀を知らない無頼《ぶらい》の徒でないかぎりは、すべての家庭は諸君のために門戸をひらいて、非常に親切に面倒を見てくれるのである。
今から約十五年ほど前に、カマルザのリッケットという男がクマーオンのポルダー家に滞在したことがあったが、ほんの二晩ばかり厄介になるつもりでいたところ、リューマチ性の熱が因《もと》で六週間もポルダー邸を混乱させ、ポルダーの仕事を中止させ、ポルダーの寝室でほとんど死ぬほどに苦しんだ。ポルダーはまるでリッケットの奴隷にでもなったように尽力してやった上に、今もって毎年リッケットの子供たちに贈り物や玩具《おもちゃ》の箱を送っている。そんなことはどこでもみな同様である。諸君に対して、お前は能なしの驢馬《ろば》だという考えを、別に隠そうともしないようなあけっ放しの男や、諸君の性格を傷つけたり、諸君の細君の娯楽を思い違いするような女は、かえって諸君が病気にか
前へ
次へ
全56ページ中2ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
岡本 綺堂 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング