世界怪談名作集
聖餐祭
フランス Anatole France
岡本綺堂訳

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)聖《セント》ユーラリ教会
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 これは、ある夏の涼しい晩に、ホワイト・ホースの樹の下にわれわれが腰をおろしているとき、ヌーヴィユ・ダーモンにある聖《セント》ユーラリ教会の堂守《どうもり》が、いい機嫌で、死人の健康を祝するために古い葡萄酒を飲みながら話したのである。彼はその日の朝、白銀《しろがね》の涙を柩《ひつぎ》おおいに散らしながら、十分の敬意を表して、その死人を墓所へ運んだのであった。

 死んだのは、わたしの可哀そうな親父ですが……。(堂守が話し出したのである)一生、墓掘りをやっていたのです。親父は気のいい人間で、そんな仕事をするようになったのも、つまりはほうぼうの墓所に働いている人たちと同じように、それが気楽な仕事であったからです。墓掘りなどをする者には「死」などという事はちっとも怖ろしくないのです。彼らはそんな事をけっして考えていないのです。たとえば私にしたところで、夜になって墓場へはいり込んでゆくくらいのことは、まるでこのホワイト・ホ
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