んでいるのではないかという考えが、稲妻《いなずま》のように私の頭にひらめいた。その時である。彼女の手が私のからだに触れるか触れないうちに、彼女は大きい唸り声を立てて私の足もとにばたりと倒れた。
「はははは。悪性者《あくしょうもの》めがおまえの美しさにちょっかい[#「ちょっかい」に傍点]を出しているな。さあ、寝てしまえ、寝てしまえ。さもないと鞭《むち》だぞ。手ひどいやつをお見舞い申すぞ」
こういう声に、私は急に振り返ると、かの老執事が寝巻のままで頭の上に鞭を振り廻しているではないか。老執事はわたしの足もとに唸っている彼女を、あわやぶちのめそうとしたので、私はあわててその腕をつかむと、老執事は振り払った。
「悪性者め、もしわしが助けに来なければ、あの老いぼれの悪魔めに喰い殺されていただろうに……。さあ、すぐにここを出て行ってもらおう」と、彼は呶鳴った。
わたしは広間から飛んで出たが、なにしろ真っ暗であるので、どこが出口であるか見当《けんとう》がつかない。そのうちに私のうしろでは、ひゅうひゅうという鞭の音がきこえて、女の叫び声がひびいて来た。
たまらなくなって、私は大きい声を出して救い
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