世界怪談名作集
廃宅
エルンスト・テオドーア・アマーデウス・ホフマン Ernst Theodor Amadeus Hoffmann
岡本綺堂訳
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【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)大勢《おおぜい》
[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)[#「あっ」に傍点]
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諸君はすでに、わたしが去年の夏の大部分をX市に過ごしたことを御承知であろう――と、テオドルは話した。
そこで出逢った大勢《おおぜい》の旧友や、自由な快闊な生活や、いろいろな芸術的ならびに学問上の興味――こうしたすべてのことが一緒になって、この都会に私の腰をおちつかせてしまったが、まったく今までにあんなに愉快なことはなかった。わたしは一人で街を散歩して、あるいは飾窓の絵や、塀のビラを眺め、あるいはひそかに往来の人びとの運勢をうらなったりして、私の若い時からの嗜好を満足させていた。
このX市には、町の門に達する広い並木の通りがあって、美しい建築物が軒をならべていた。いわばこの並木通りは富と流行の集合地である。宮殿のような高楼の階下は、贅沢品を売りつけようとあせっている商店
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