にこれを見せたらば、確かに神に仕うる僧侶とは思われず、何か涜《けが》れたる悪漢《わるもの》か、屍衣《しい》の盗人《ぬすびと》と、思い違えられたであろうと察せられました。
 熱心なセラピオン師の厳峻と乱暴とは、使徒とか天使とかいうよりも、むしろ一種の悪魔のふうがありました。その鷲のような顔を始めとして、すべて厳酷な相貌《そうぼう》が灯のひかりにいっそう強められて、この場合における不愉快な想像力をいよいよ高めました。わたしの額には氷のような汗が大きいしずくとなって流れ、髪の毛は怖ろしさに逆立ちました。苛酷なセラピオン師は実に悪《にく》むべき涜神《とくしん》の行為を働いているように感じられ、われわれの上に重く渦巻いている黒雲のうちから雷火がひらめき来たって、彼を灰にしてしまえと、わたしは心ひそかに祈りました。
 糸杉《サイプレス》の梢に巣をくむ梟《ふくろう》は灯の光りにおどろいて飛び立ち、灰色のつばさを提灯のガラスに打ち当てながら悲しく叫びます。野狐も闇のなかに遠く啼《な》いています。そのほかにも数知れない無気味な音がこの沈黙《しじま》のうちに響いて来ました。最後にセラピオン師の鶴嘴が棺を撃
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