かすか、あるいは両方ともに殺すか、とても現在の恐ろしい状態には長く堪えられないと決心したのであります。
セラピオン師は鶴嘴《つるはし》と梃《てこ》と、提灯とを用意して来ました。そうして夜なかに、わたしたちは――墓道を進みました。その付近や墓場の勝手を僧院長はよく心得ていました。たくさんの墓の碑銘をほの暗い提灯に照らし見た末に、二人は長い雑草にかくされて、苔《こけ》がむして、寄生植物の生えている石板のあるところに行き着きました。碑銘の前文を判読すると、こうありました。
[#ここから2字下げ]
ここにクラリモンド埋めらる
在りし日に
最も美しき女として聞こえありし。
[#ここで字下げ終わり]
「ここに相違ない」と、セラピオン師はつぶやきながら提灯を地面におろしました。
彼は梃を石板の端から下へ押し入れて、それをもたげ始めました。石があげられると、さらに鶴嘴で掘りました。夜よりも暗い沈黙のうちに、わたしは彼のなすがままに眺めていると、彼は暗い仕事の上に身をかがめて、汗を流して掘っています。彼は死に瀕した人のように、絶えだえの呼吸《いき》をはずませています。実に怪しい物すごい光景で、もし人
前へ
次へ
全65ページ中61ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
岡本 綺堂 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング