つと、棺は激しい音を立てました。彼はそれをねじ廻して、蓋《ふた》を引きのけました。さてかのクラリモンドは――と見ると、彼女は大理石像のような青白い姿で、両手を組みあわせ、頭から足へかけて白い屍衣《しい》一枚をかけてあるだけでした。彼女の色もない口の片はしに、小さい真っ紅な一滴が露のように光っていました。セラピオン師はそれを見ると、大いに怒りを発しました。
「おお、悪魔がここにいる。汚《けが》れたる娼婦! 血と黄金《こがね》を吸うやつ!」
それから彼は死骸と棺の上に聖水をふりかけて、その上に聖水の刷毛《はけ》をもって十字を切りました。哀れなるクラリモンド――彼女は聖水のしぶきが振りかかるやいなや、美しい五体は土となって、ただの灰と、なかば石灰に化した骨と、ほとんど形もないような塊《かたまり》になってしまいました。
冷静なセラピオン師は、いたましい死灰を指さして叫びました。
「ロミュオー卿、あなたの情人をご覧なさい。こうなっても、あなたはまだこの美人とともに、リドの河畔やフュジナを散歩しますか」
わたしは両手で顔をおおって、大いなる破滅の感に打たれました。わたしは司祭館に帰りました。
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