つの抽斗があって、棚の上には密封したガラス罎がたくさんにならんでいた。その罎には無色の揮発性の物を貯わえてあって、それはなんだかわからない。そのうちに燐とアンモニアの幾分を含んでいるが、別に有毒性の物ではなかったと言い得るだけのことである。そこにはまた、すこぶる珍らしいガラスの管《くだ》と、結晶石の大きい凝塊《かたまり》と、小さい点のある鉄の綱と、琥珀《こはく》と、非常に有力な天然磁石とが発見された。
一つの抽斗からは、金ぶちの肖像画があらわれた。密画に描いたもので、おそらく多年ここにあったと思われるにもかかわらず、その色彩は眼に立つほどの新しさを保っていた。肖像はやや中年にすすんだ、四十七、八歳ぐらいの男であった。
その男は特徴のある顔――はなはだ強い印象をあたえる顔で、それをくどくどと説明するよりも、ある大きい蟒蛇《うわばみ》が人間に化けた時、すなわちその外形は人間にして蟒蛇のタイプであるといったらば、諸君にも大かた想像がつくであろう。前頭の広さと平ったさ、怖ろしい口の力をかくしているような細さと優しさ、翠玉《エメラルド》のごとくに青く輝いている長く大きい物凄い眼――更にまた、
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