して、下の部屋へ降りてみると、その構造には別に怪しいところもなく、そこには窓も烟出《けむだ》しもあったが、それらは煉瓦で塗り固められて、すでに多年を経たものであることが明らかに見られた。
 蝋燭の火をたよりにそこらを検査すると、おなじ型の家具――三脚の椅子、一脚の槲《かしわ》の木の長椅子、一脚のテーブル、それらはほとんど八十年前の形式の物であった。壁にむかって抽斗《ひきだし》つきの箱があって、その箱から八十年前または百年前に、相当の地位を占めていた紳士が着用したのであろうと思われる、男の衣服の附属品の半ば腐朽しているのを発見した。
 高価な鋼鉄のボタンや帯留めや、それらは宮中服の附属品であるらしく、ほかに立派な宮中用らしい帯剣とチョッキ、そのチョッキは金の編み絲で華麗に飾られていたらしいが、今はもう黒くなって湿《しめ》っていた。それから五ギニアの金と少しばかりの銀貨と、象牙の入場券――これはおそらく遠い昔の宴会か何かのときの物であろう――などが現われたが、私たちの主要なる発見は壁に取り付けてある鉄の金庫のようなもので、その錠をあけるのはなかなか困難であった。
 この金庫には三つの棚と二
前へ 次へ
全54ページ中49ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
岡本 綺堂 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング