のうちに鶏卵《たまご》の殻《から》から出るように、火の玉の一つ一つから驚くべき物が爆発して、空中に充満した。それは血のない醜悪な幼虫のたぐいで、わたしには到底《とうてい》なんとも説明のしようがない。一滴の水を顕微鏡でのぞくと、無数の透明な、柔軟な、敏捷な物がたがいに追いまわし、たがいに喰い合っているのが見える。今ここにあらわれた物もまずそんな種類で、肉眼ではほとんど見分け難いものであると思ってもらいたい。その形になんの均一《きんいつ》があるわけでもなく、その行動になんの規律があるわけでもなく、居どころも定めずに飛びまわって、私のまわりをくるくると舞いはじめた。
 その集団はだんだんに濃密になって、その廻転はだんだんに急激になって、わたしの頭の上にもむらがって来た。何かの用心に突き出している私の右手の上にも這いあがって来た。時どきに何かさわるように感じたが、それはかれらの仕業《しわざ》でなく、眼にみえない手が私にさわるのであった。またある時には、冷たい柔らかい手がわたしの喉《のど》をなでるように感じたこともあった。
 ここで恐れをいだいて降参すると、わたしのからだに危険があると思ったので
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