ってきいた。
「どうだね。この馬はあるけるかね。」
「すこし休ませたら大丈夫だろうと思うが……。」と、馭者は考えながら言った。「だが、こいつもこのごろは馬鹿に足が弱くなったからね。」
 再び乗り出して、また途中で倒れられては困ると僕は思った。青年もやはりその不安を感じたらしく、自分はいっそこれから歩くと言い出した。そうして、馭者と談判の結果、馬車賃の半額を取戻すことになった。まだ一里ほども来ないのに、半額では少し割が悪いと思ったが、これは災難で両損とあきらめるよりほかはない。僕も半額を受取って、カバンひとつを引っさげて歩き出すと、青年も一緒に列んで歩いて来た。こうなると僕も彼と道連れにならないわけには行かない。僕は歩きながら訊《き》いた。
「あなたは何処までおいでです。」
「KBの村までまいります。」と、かれは丁寧に、しかもはっきりと答えた。
「じゃあ、おなじ道ですね。僕はMKの町まで帰るのです。」
 こんなことからだんだんに話し合って、僕がMKの町の秋坂のせがれであるということが判ると、青年は更にその態度をあらためて、いよいよその挨拶が丁寧になった。僕の家は別に大家《たいけ》というの
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