はきゃっ[#「きゃっ」に傍点]といって逃げ出したそうです。そんなわけで、あの辺では幽霊の噂が一面にひろがって、誰でも知らない者はないくらいです。」
「そこで、貴公の鑑定はどうだ。そんな芝居をするのは、甚吉の家の奴らか、伊兵衛の家の奴らか。」と、秋山は訊いた。
「そこです。」と、奥野は一と膝すすめた。「あなたの鑑定通り、どうでその幽霊は偽者《にせもの》に相違ありませんが、わたくしも最初は甚吉の家の奴らだろうと思っていました。甚吉の家は物持ちですから、金をやって誰かを抱き込んで、こんな芝居をさせていることと睨んだのですが、だんだん詮議してみると、どうも助蔵の方が怪しいようです。」
「それは少しあべこべのようだが、そんなことが無いともいえねえ。いったいその助蔵というのはどんな奴だ。」
「助蔵は生れ付きの百姓で、薄ぼんやりしたような奴ですが、女房のおきよというのはなかなかのしっかり者で、十八の年に助蔵のところへ嫁に来て、そのあくる年に伊兵衛を生んで、今年ちょうど四十になるそうです。ところで、御承知かも知れませんが、伊兵衛は総領で、その下に伊八という弟があります。伊八は兄貴と二つ違いで、ことし二
前へ 次へ
全24ページ中10ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
岡本 綺堂 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング