す。わたくしも先ずそうだろうと思いましたが、ただ少し不思議なことは……。
 そういうと又叱られるかも知れませんが、伊八とお園は川岸づたいに妙見さまの方へ行ったらしいのに、そのお園はいつの間にか見えなくなって、伊八だけがここへ来て死んでいる。勿論、わたくしが狐に化かされたとすれば仕方もありませんが、そこが何だか腑に落ちないので、念のために亀屋の方を調べてみると、お園は日が暮れてから髪なぞを綺麗にかき上げて、いつもよりも念入りにお化粧をしていたかと思うと、ふらりとどこへか出て行ったままで、いまだに帰って来ないというのです。そうなると、わたくしがお園の姿を見たというのも、まんざら狐でもないようで……。」
 彼はやわらかに一種の反駁を試みた。
 秋山の権幕があまりに激しいので、彼は一段と恐縮したように見せながら、徐々に備えを立て直して、江戸の手先がむやみに狐なんぞに化かされて堪るものかという意味をほのめかしたのである。
 秋山はだまって聴いていた。

 あくる朝、奥野は藤次郎をつれて再び柳島へ出張《でば》ると、さらに新しい事実が発見された。お園の死骸が柳島橋の下に浮かんでいたのである。
 橋の
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