らを見まわしても、あたりは唯まっくらで、なんにも見えません。」
「あたりめえよ。」と、秋山は又叱った。
「仕方がなしにすごすご引揚げて、もとの長徳院のあたりまで帰って来ると、なにかそこらがそうぞうしくって、大勢が駈けて行くようですから、ボヤでも出しゃあがったかと思って、通りがかりの者に訊いてみると、いやどうも驚きました。町と村との境いにある小川のふちに、助蔵のせがれの伊八が斬られて死んでいるというのです。わたくしも呆気《あっけ》に取られながら、すぐに其の場へ飛んで行くと、伊八はまったく死んでいました。近所の者が集まってわやわや言っているのを掻き分けて、その死骸をあらためてみると、伊八は鎌のようなもので頸筋を斬られているのです。兄貴も鎌で殺され、弟も同じような刃物で斬られている。しかもその死んでいる場所が、兄貴の殺されたのと同じ所だというので、みんなも不思議がっているのです。その知らせに驚いて、助蔵の夫婦もかけつけて来ましたから、わたくしは其の女房のおきよを取っ捉まえて、本人の家へ引摺って行ってきびしく取調べると、幾らかしっかり者でもさすがに気が顛倒しているとみえて、案外にすらすらと白状
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