ごとく烏鷺《うろ》の勝負を争っているうちに、秋の日もいつか暮れて、細かい雨がしとしとと降り出した。秋山は石を置きながら、表の雨の音に耳をかたむけた。
「また降って来ましたな。」
「秋になってから、とかくに雨が多くなりました。」と、隠居も言った。「しかしこういう時には、少し降った方が気がおちついて好うござります。」
ここで夕飯の馳走になって、二人は好きな勝負に時の移るのを忘れていた。秋山の屋敷ではその出先を知っているので、どうで今夜は遅かろうと予期していたが、やがて四つ(午後十時)に近くなって、雨はいよいよ降りしきって来たので、中間《ちゆうげん》の仙助に雨具を持たせて主人を迎えにやった。
「明日のお勤めもござります。もうそろそろお帰りになりましてはいかが。」
迎えの口上を聞いて、秋山も夜のふけたのに気がついた。今夜のかたき討は又近日と約束して、仙助と一緒にここを出ると、秋の夜の寒さが俄かに身にしみるように覚えた。仙助の話では、さっきよりも小降りになったとの事であったが、それでも雨の音が明らかにきこえて、いくらか西風もまじっているようであった。そこらの町家はみな表の戸を締切って、暗い往
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