族一同がその祠に参拝するのを例としていた。そのためか、家にまつわる怪しい呪詛も久しく其の跡を断ったのであるが、明治の後はそんな迷信も打破《だは》されてしまった。古い祠も先代の主人のために取毀された。
 次郎君の知っているのは、それだけの伝説に過ぎないのであって、まだ其他にも何かの事情があるのかも知れない。いずれにしても、そんな迷信じみた伝説がほとんど何人《なんぴと》にも忘れられてしまった明治時代の末期から、前に言ったような種々の不思議(?)が再び現われて来たのである。三好家では勿論かくしているが、しばしば怪しい蛇に見舞われて、何かの迷惑と恐怖とを感ずることがあるらしい。それに対して、桐沢氏も最初は一笑に付していたが、近頃では「どうも不思議だ。」などと首をかしげている事もあるという。したがって、桐沢氏がKの町出身の深見氏のところへ多代子を媒妁することになったのは、故意か偶然か判らない。次郎君は
「親父は何かの罪亡ぼしのつもりかも知れない。」と笑っているそうであるが、さてその深見氏が、かの森戸家の後裔《こうえい》であるかどうか、そんなことは勿論わからない。
 以上の物語が終ったころに、先生
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