の説明によって会得《えとく》することが出来た。多代子はことし十九で、容貌《きりょう》は見る通りに美しく、性質も温順で、学業の成績もよいので、まことに世話甲斐があると先生夫婦も楽しんでいるらしい口ぶりであった。
奥さんが降りて行った後に、先生とわたしは差向いで二時間ほども話した。先生は午飯《ひるめし》を食ってゆけと言われたが、わたしは他に廻るところがあるので、又お邪魔に出ますと言って二階を降りると、奥さんは多代子を連れて出て来た。
「もうお帰りですか。では、ここで改めて多代子さんを御紹介しましょう。」
彼女は果たしてわたしの顔を記憶していたかどうか知らないが、ともかくも型のごとくに挨拶《あいさつ》して別れた。先年はまだ少女といってもよかった多代子が、今は年ごろの娘に成長して、さらにその美を増したように見えた。その白い艶《あで》やかな顔には、先年見たような暗い蒼ざめた色を染め出していなかった。春風の吹く往来へ出て、わたしもなんだか一種の愉快を感じながら歩いた。
二回目に先生を訪問したのは四月の末で、その日は平日《へいじつ》であったので通学中の多代子さんは見えなかった。先生のお嬢さんも
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