春の修善寺
岡本綺堂
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【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)大仁《おおひと》
|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)温泉|倶楽部《クラブ》
[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(数字は、JIS X 0213の面区点番号、または底本のページと行数)
(例)※[#「風にょう+昜」、第3水準1−94−7]
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十年ぶりで三島駅から大仁《おおひと》行の汽車に乗換えたのは、午後四時をすこし過ぎた頃であった。大場駅附近を過ぎると、ここらももう院線の工事に着手しているらしく、路《みち》ばたの空地に投げ出された鉄材や木材が凍ったような色をして、春のゆう日にうす白く染められている。村里のところどころに寒そうに顫《ふる》えている小さい竹藪は、折からの強い西風にふき煽《あお》られて、今にも折れるかとばかりに撓《たわ》みながら鳴っている。広い桑畑には時々小さい旋風をまき起して、黄竜のような砂の渦が汽車を目がけて直驀地《まっしぐら》に襲って来る。
この如何《いか》にも暗い、寒い、すさまじい景色を窓から眺めながら運ばれてゆく私は、とても南の
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