叔父と甥と
――甲字楼日記の一節――
岡本綺堂
−−
【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)嫩会《ふたばかい》
|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)秋|闌《たけなわ》
[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)[#ここから3字下げ]
/\:二倍の踊り字(「く」を縦に長くしたような形の繰り返し記号)
(例)まざ/\
*濁点付きの二倍の踊り字は「/″\」
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大正九年十月九日、甥の石丸英一逝く。この夜はあたかも嫩会《ふたばかい》の若き人々わが家にあつまりて劇談会を催す例会の夕《ゆうべ》なりしかば、通知するまでもなく皆々来りあつまる。近親の人々もあつまりて回向《えこう》す。英一は画家として世に立つべき志あり。ことしの春に中学を卒《お》えたれば、あくる年の春には美術学校の入学試験をうけんといい、その準備のために川端画学校に通いいたるに、かりそめの感冒が大いなる禍《わざわい》の根を作りて、夏の盛りを三月あまりも病《や》み臥《ふ》して、秋|闌《たけなわ》ならんとする頃に遂に空しくなりぬ。今更ならねど、若き者の世を去るは一入《ひとしお》
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