秋の修善寺
岡本綺堂
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【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)おくれ馳《ば》せ
|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)一|間《けん》
[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)[#ここから2字下げ]
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一
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九月の末におくれ馳《ば》せの暑中休暇を得て、伊豆の修善寺温泉に浴し、養気館の新井方にとどまる。所作為《しょざい》のないままに、毎日こんなことを書く。
[#ここで字下げ終わり]
二十六日。きのうは雨にふり暮らされて、宵から早く寝床に這入《はい》ったせいか、今朝は五時というのにもう眼が醒めた。よんどころなく煙草《たばこ》をくゆらしながら、襖《ふすま》にかいた墨絵の雁と相対すること約半時間。おちこちに鶏が勇ましく啼《な》いて、庭の流れに家鴨《あひる》も啼いている。水の音はひびくが雨の音はきこえない。
六時、入浴。その途中に裏二階から見おろすと、台所口とも思われる流れの末に長さ一|間《けん》ほどの蓮根を浸してあるのが眼についた。湯は菖蒲の湯で、伝説にいう源三位《げんざんみ》頼政の室《しつ》
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