とみだれ生ひたり。橋を隔てゝ修禪寺の山門みゆ。同じ日の宵。
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(下田五郎は頼家の太刀を持ち、僧は假面の箱をかゝへて出づ。)
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五郎 上樣は桂どのと、川邊づたひにそゞろ歩き遊ばされ、お供の我々は一足先へまゐれとの御意であつたが、修禪寺の御座所ももはや眼のまへぢや。この橋の袂にたゝずみて、お歸りを暫時相待たうか。
僧 いや、いや、それは宜しうござるまい。桂殿といふ嫋女《たをやめ》をお見出しあつて、浮れあるきに餘念もおはさぬところへ、我々のごとき邪魔外道が附き纒《まと》うては、却つて御機嫌を損ずるでござらうぞ。
五郎 なにさまなう。
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(とは云ひながら、五郎は猶不安の體《てい》にてたゝずむ。)
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僧 殊に愚僧はお風呂の役、早う戻つて支度をせねばなるまい。
五郎 お風呂とて自づと沸いて出づる湯ぢや。支度を急ぐこともあるまいに……。先づお待ちやれ。
僧 はて、お身にも似合はぬ不粹をいふぞ。若き男女《をとこをうな》が
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